Mindblown: a blog about philosophy.

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    週末、祖父の見舞いへ。 晴れた日で、向かう電車の車窓から流れる景色をずっと見ていた。それぞれの場所に人が住んでいて、それぞれの生活がある。こうやって車窓から見る風景でも、誰かにとっては見慣れた場所だ。当たり前のことだけれど、何故か不思議な感じがした。ぼくはそこにあるものを知らない。 病院近くのコンビニで、祖父にりんごジュース (ストローで飲めるやつ) と、自分にトマトジュースを買って行った。 病室は 4 人部屋で、家族で見舞いに来ている人たちがいた。軽く会釈。それにしても、どう見ても祖父が一番元気だ。5 月の終わりに 91 歳になる祖父は、今はその病院で一番年長者なんだそうだ。七夕や正月や節分や、そういう時には決まって皆で集まってお祝いがあるとのことで、その時の写真を見せてもらった。年長者だけあって、スピーチをしたりで忙しいらしい。カラオケをしている写真もあった。 ぼくはベッド際の車椅子に座って近況を話して、あとは祖父が教員をしていた頃の話だとか (「研究とか勉強はたいしてしてねーよ」とか言ってた)、その後市役所の「悩みごと相談員」をやっていた時の話などを聞いた。「悩みごと相談員」というのは、お隣さんとのことや、息子が悪さしてとか、諸々の悩める事情で相談に来た人たちの話を聞いて、指導することが勤めなんだそうだ。でもまあ、指導なんて言っても、実質は話を聞いてあげることと、「こうしたらいいんじゃないかな?」っていうアドバイスをしたり、何かしら励ますことが仕事だったんだって。中には難しい問題もあるから、そういう時は弁護士を呼んでいたそうだ (教え子に弁護士になったのが 3 人いたから、なかば強引に来てもらってたらしい)。 それから、麦ジュースを一本もらった。クッキーと沖縄産のまんじゅうも食べた。バナナと焼芋はお腹いっぱいだって遠慮しておいた。相変わらず「嫁さん見つけろよ!」などと言われる。 暫く話をした後、叔母が来た。ぼくが来る前まで来ていたのだけど、戻り際、コンビニから病院に向かう僕を見かけて、一旦家に帰った後また来たとのこと。祖父から「体気をつけろよー」と励ましの言葉を頂戴して、叔母とその場を去った。 叔母から聞くと、祖父は (片肺しかなく、それを患っているのだが) 肺のための薬を毎日飲んでいて、それが無いと苦しくて仕方が無い状態になってしまうそうだ。一度、薬が切れたことがあって、その時は本当に酷かったらしい。その薬も、「肺は楽になるが、骨は壊れていく」というもので、それでも良いのかという判断を医師から本人に求められたとのこと (祖父はそれでも良いと言った)。飲み始めは骨の苦痛をよく言っていたらしいが、今はもう痛みは感じていない。祖父が言うには「壊れて丁度良い按配に落ち着いた」のだそうだ。そういえば、この前行った時は体が痛むことを言っていた。 食べ物もたくさん食べて、以前よりも太って、明るく笑い上戸の祖父と話している間はそんなことは考えもしなかった。 正月の書初めの話で、同じ病室のお爺さんは「はやく家に帰りたい」と書いたらしい。それが本心なんだろうね、と話したけれど、可笑しくも悲しい。祖父が書いた言葉は「お正月」。 ぼくらは誰も、ある意味毎日長らえるための薬を飲んでいるようなものだと思う。でも、それだけではなくて、変化を恐れない強さや、大切なものを守る情熱や、物事を笑い飛ばす度胸と器量や、そういったもので人は真に生かされる。それは別に体が老いようが、弱ろうが、失わないでいられるものなんだって、ここ数年のうちに白髪の中にほんの少しだけ入り混じった黒髪が、静かに主張しているような気がした。

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